前回のブログ「喉頭原音ってどんな仕組みで「声」に変わるの?」では声帯で作られた音がどのように声に変わっていくのか?を説明しました。
またソース・フィルタ理論についてもお話しをしました。
今回は、日本語の母音がどのような声道の形状をしているのか?それによって、それぞれどのような特性があるのか?
について科学的にお話ししようと思います。
まずは「い」母音
左側が口の中の図。
右側が周波数特性です。(黄色の線が周波数特性でF1, F2, F3)と数えます。
※音響解析をする時に重要な事※
母音を認識するためにはF1,F2(第1共鳴、第2共鳴)の2つの共鳴が必要となります。
喉側のスペースが大きくなるとF1の周波数帯が低い傾向にあり、逆に狭いとF1が高い傾向にあります。
口側のスペースが大きくなるとF1の周波数帯が低い傾向にあり、逆に狭いとF1が高い傾向にあると言う相関性があります。
「い」母音の特徴
・舌の位置が非常に高く、前に位置。
※耳鼻科で声帯を観る時に「い〜」と発音させられるのは、喉の空間が最も広く、観察しやすいからです。
・喉側の空間が広く、口側の空間が狭い。
・F1とF2を観ると共鳴周波数が隣接しておらず、干渉が少ない。
・F1(300Hz)とF2(2300Hz)が遠く離れているため、400Hz〜2000Hzがポッカリと抜け落ちてしまい、歌声に必要な情報が欠落してしまいやすい
・F1が300Hz位で低く、地声発声が難しい。裏声発声は得意。(追々お話ししていきます)
裏声発声にはとても適した母音になります。
ボイストレーニングでは、い母音を歌唱用の適切な発音を作る事を、発声開発の初期段階で目指すのは、この母音はマスターしてしまえば、声をコントロールするのに非常に簡単なツールになってくれます。
第1共鳴と第2共鳴の周波数
男性
F1(第一共鳴) 270Hz, F2(第二共鳴) 2300Hz
女性
F1(第一共鳴) 300Hz, F2(第二共鳴) 2800Hz
「え」母音について
「え」母音の特徴
・舌の位置は前側に位置し、高さは比較的フラット。
・喉側、口側の空間は両方とも広い
・F1の周波数が比較的高く、地声発声に向いている(F1の周波数は「い」母音の約1オクターブも上。)
え母音は比較的、中間的な母音と呼べるかもしれません。
F1とF2もそれなりに離れているため、叫びやすい母音ではなく、ミックスボイスの発声習得にとても重要な重要な母音と考えます。
第1共鳴と第2共鳴の周波数
男性
F1(第一共鳴) 530Hz, F2(第二共鳴) 1850Hz
女性
F1(第一共鳴) 600Hz, F2(第二共鳴) 2350Hz
「あ」母音について
「あ」母音の特徴
・舌の位置は奥。高さはフラット。
・口が大きく開くため、音声は放射されやすい
・F1、F2の周波数が近い→干渉しやすい
・F1,F2の周波数が高い→高いエネルギーを増幅しやすい
そんなわけで、とてもコントロールの難しい母音とされています。
とにかく叫びやすい母音です。
ただし、逆に言えば、干渉しやすい、高いエネルギーを増幅しやすいと言う特徴を上手に使えば、地声の開発ツールとしては非常に優秀な母音になってくれます。
第1共鳴と第2共鳴の周波数
男性
F1(第一共鳴) 730Hz, F2(第二共鳴) 1100Hz
女性
F1(第一共鳴) 850Hz, F2(第二共鳴) 1200Hz
「お」母音について
「お」母音の特徴
・舌の位置は奥。奥側が高い位置にある。
・唇は円形になり、音声の放射は穏やかになる。
・F1、F2の周波数が近い→干渉しやすい
・F1,F2の周波数はそれほど、高くない。
F1,F2は近い位置にありますが、周波数はほどほどに低く、過度に音響エネルギーを増幅させにくく、ミックスボイスや歌声の開発には向いている母音と言えます。
ただし、舌の位置の関係上、巻き舌のようなくもった発音になりやすく、この「くもった発音」が発声をしにくくする事が多い母音です。
第1共鳴と第2共鳴の周波数
男性
F1(第一共鳴) 570Hz, F2(第二共鳴) 850Hz
女性
F1(第一共鳴) 590Hz, F2(第二共鳴) 900Hz
「う」母音の特徴
・舌の位置は奥。奥側が最も高い位置にある。
・唇は円形になり、音声の放射は穏やかになる。
・F1が300Hzと非常に低く、裏声発声に向いている(追々お話ししていきます)
第1共鳴と第2共鳴の周波数
男性
F1(第一共鳴) 300Hz, F2(第二共鳴) 850Hz
女性
F1(第一共鳴) 370Hz, F2(第二共鳴) 950Hz
う母音は歌を歌う方ならわかると思いますが、裏声発声にとても適しています。
追々お話ししていきますが、F1の周波数が低くなれば低くなるほど、裏声を作るのが容易になるとされています。
最後に・・・・
いかがでしたか?
それぞれの母音の声道の形状とそれによっての周波数特性を書いていきました。
この記事で重要なのは、母音にはそれぞれ周波数特性があり、その周波数特性は声道内での共鳴によって作られています。
つまり母音は声の共鳴の一部(と言うか、かなり多くの部分)によって生まれていると言えるわけです。
従って、「この響きをもっと補強したい!」とインストラクターが考えた場合、
「この辺りに響かせるように・・・!」と言う感覚的な話しをする以上に、母音をコントロール出来る様にすれば、一発でその響きを作る事も可能になります。
この記事を読んだ時点では「これをどのように歌に活かすの?」と思う方も多いと思いますが、この母音を声の開発のツールとして考える事。
そして苦手な音域での母音のコントロール法を学ぶ時の事典のようにここに戻って読み返してみると「ああ!なるほど!」と言う瞬間も出来てくると思います!
次の記事 母音と倍音の関係性。操作方法って?
この記事を書いた人
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セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター
アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。
所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop
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