- 2021.03.03
- 声の健康法
プロ・シンガー、もしくは歌う頻度が非常に多い方達が、近年「機能性発声障害」と言う診断を受ける事が多くあります。
この記事をざっくり言うと。
・ 突然、何かをきっかけに高い音域が出なくなるケースがある
・ 耳鼻科で咽頭、喉頭を診察してもらうが「異常なし」と診断
・ 以前、楽に歌っていた音域も全くでない
・ 高音に「天井」が出来てしまったように届かなくなる
・・・そんな際の対処方法をお話しします。
突然、高い声が出ない!
ある日突然声が詰まったようになってしまい、高音が出なくなってしまうと言うケースに悩みスタジオに来られるクライアント様が年に数名いらっしゃいます。
特に声帯結節やポリープ、声帯炎と言う異常ではなく、お医者様には「あなたの機能的な音域の問題」と指摘をされ、治療をする性質の物ではないと言われてしまい、途方に暮れてしまうと言うケースです。
炎症を起こしているわけではないので処方する薬もない、発声訓練で解決する以外方法はないと言う事です。
このケースは特にプロ・ボイス・ユーザーに多く、共通して言える事はストレス下で歌わなくてはいけないケースが多い方達です。
彼らが共通して言うのは、
「高い音程から天井が出来てしまったように、首の筋肉が張ってしまう」もしくは、
「地声を張ろうとしても、意思とは別にひっくり返ってしまう」です。
機能性発声障害と診断を受ける
上記のように「高い声が出ない」だけでなく、
・音程のコントロールが上手く出来なくなってしまった
・声がかすれる
・声がひっくり返る
と言った症状の場合、専門の音声外来の医師から「機能性発声障害」と診断を受ける事があります。
この場合、病院所属の、もしくは提携する言語聴覚士から発声訓練を受ける事があります。
訓練は医学的にエビデンスのある方法を使った訓練法を行います。
言語聴覚士の発声訓練はリハビリテーションを目的としていますので、状態を改善出来る可能性は高いですが、そこから歌唱に耐えられる状態にまで持っていけるかどうかはケースバイケースのようです。
ただ、病名が付くような状態であればまずは医師の指示に従うのが良いと考えます。
一定の所まで改善したら、(多くの場合で話し声で大きな弊害が現れなくなってきたら)ボイストレーナーの元で訓練となります。
言語聴覚士とボイストレーナーでは役割分担が異なります。
言語聴覚士は治癒、リハビリテーションを目的としていて、セラピスト(治療職)です。
ボイストレーナーは訓練、リハビチュエーション(慣化)を目的としてトレーナー(訓練職)です。
例えるなら事故や手術、病気の後に体を以前と同じ、もしくは近い状態で動かせる事を目的としてリハビリを行う作業療法士。
そういった障害がない方で、体の機能向上を目指す場合にパーソナルトレーナーのトレーニングを受ける事と考えると分かりやすいかも知れませんね!
脳からの神経伝達が何かきっかけに誤ってしまう
この症状を桜田ヒロキは「シンガーのイップス」と呼んでおり、何かをきっかけに脳から声帯を目的に合ったコントロールをする筋肉ではなく、
それ以外の筋肉に力を入れるように伝達してしまっているのではないかと予想します。
発声に関わる筋肉は喉だけでも20種類を超えるため非常に複雑な動きをしています。
発声時の「筋肉の使い方の癖」は恐らく誰一人として同じ人がいないのではないか?と言うくらい個体差がある物と考えられますが、
「悪い発声の仕方」はある程度パターン化でき、それに伴い改善を行う事も可能だと考えます。
声が出しにくくなる症状が起こるきっかけはいくつか紹介すると、
・無理なレコーディングが続いた
・舞台演劇に出演し、大声での発声が続いた
・プライベートで過度なストレスを感じる生活にあった
・扁桃炎もしくは咽頭炎を煩った
・ホルモン剤を服用した
これらをきっかけに間違った発声を繰り返し行ってしまい、
「エラーの発声状態」を脳が覚えてしまっているのではないか?と考えています。
声帯のコントロールは主に・・・
・声帯を閉じる筋肉(LCA)
・声帯を開く筋肉(PCA)
・声帯を引っ張る筋肉 (CT)
・声帯を縮める筋肉 (TA)
これらの筋肉でコントロールしています。
この他に喉頭を上げる、下げるアクションをする筋肉であったり、声帯を納める喉頭を吊る筋肉の中には、前後のベクトルを持つ筋肉もあります。(茎突咽頭筋)
この筋肉達を中心に別の部位の筋肉でフォローをする等していますが、機能性発声障害と診断を受ける方達は本来使うべく筋肉(使えば発声が楽な筋肉)がうまく機能せず、歌を歌うことはもちろん声を出す事も難しくなってしまうのではないでしょうか?
特徴として過緊張発声である事が多い
上記の通り、主にCT(輪状甲状筋)に脳から指令が出て、狙った音程を歌ったり、高い声を出したりするわけですが、その際に、脳からCT以外に指令が行ってしまった結果、高い音程が出せなくなる可能性が高いわけです。
これがLCA(外側輪状披裂筋)で同じような事が起こると充分に声帯を閉じる事が出来ず、嗄声(声がれ状態)が起こる可能性が高いと考えます。
外側から観察すると首の前側の筋肉(主に胸骨舌骨筋)、首回りの筋肉(胸鎖乳突筋)に過度の緊張が観られます。
胸鎖乳突筋は本来、首を回旋する筋肉ですので、ここに過度に力が入った状態で発声すると正直かなり苦しいです・・・。
最近では、発声時に「胸鎖乳突筋に拮抗する頭板状筋の過緊張が原因で胸鎖乳突筋に力が入る人が多い」と聞いた事があります。
発声時に胸鎖乳突筋に力が入り、首が筋張ってしまう方は後頭部の首と頭の付け根を軽くマッサージしながら発声訓練を行うと改善する事があります。
こう言った状態に陥りやすい方の特徴として、
「元々高い声が難なく出せた」タイプの方に多いように感じます。
訓練して積み上げた経験が少ないからこそ、バランスが崩れた時の復旧作業が出来ず混乱してしまうようです。
発声は1人で悩まないで下さいね。
声の病気が疑われる時は、まずは音声外来のある耳鼻科医へ。
医師の指示の元、歌唱を含む(もしくは含まない)発声訓練で解消していくのが手順です!
では実際の訓練方法は?
僕、桜田ヒロキのボイストレーニングの方法は大きく分けて2つの訓練から成り立ちます。
・Register Isolation Exercise(低高音の歌い方をあえて分離させる訓練)
フルボイス(チェストボイス)、ファルセット(ヘッドボイス)を分離して行う方法です。
ファルセットは高い音域から非常に低い音域まで出します。
低音域でのファルセットはB3くらいにまで至りますので、かなり出しにくいですし、訓練が必要です。
フルボイスもかなり低い音から高い音まで出すようにします。
これもかなり高い音域でのフルボイスになりますので、訓練が必要ですし、熟練者でも結構キツいです。
このトレーニング方法は主に「独立した地声発声」もしくは「独立した裏声発声」の未熟な場合に用います。
※発声障害が疑われる方の実際のレッスン動画
地声発声が出来ない場合・・・
低音でのチェストボイス(地声発声)が苦手な場合、音域を低音のみにしぼり込み徹底的に地声音色を出せるようにする。
音声学的には「高次倍音の強化」「甲状披裂筋の活性化」「声門下圧の上昇」を目的とします。
高音域が未発達の場合・・・
主に輪状甲状筋(声帯を引っ張る筋肉)の未発達等により高音域が出ない場合、音域を高音域にしぼり込み徹底的に裏声発声を行わせます。
・Register Mixing Exercise(低高音の歌い方をスムーズにする訓練)
チェストボイス、ファルセット(ヘッドボイス)を連結していく方法です。
この方法でのトレーニングはRegister Isolation Exerciseをある程度習得している事が必要です。
「地声が出ない」「裏声が出ない」と言う状態では行えません。
まずは裏声、地声の「素材」を揃える必要があります。
このメニューはRegister Isolation Exercise等で地声、裏声がある程度しっかり出せるようになっていると言う前提で・・・
地声的な音色で音域を拡げられる
一般的に言う地声発声と裏声発声のメリットを融合させるトレーニング法のため、音域の拡大に絶大な効果があります。
具体的なエクササイズの処方方法
ここでは「高音域が出しにくくなってしまった」という現象に対しての一般的なアプローチ方法を紹介します。
STEP 1
Register Isolation Exercise(裏声発声)で声帯をひっぱる運動「CT(輪状甲状筋)」をトレーニングする。
Register Isolation Exercise(地声発声)で声帯を縮める運動『TA(甲状披裂筋』をトレーニングする。
これらのエクササイズを行う事により本来、発声に必要な筋肉の使い方の学習、不要な筋肉の不活性化を行います。
STEP 1は「シンガー向けのリハビリメニュー」と考えられます。
STEP 2
徐々にRegister Mixing Exerciseを使い、
音程が上がるにつれて徐々に
・声帯を縮める筋肉 (TA)が緩み
・声帯を引っ張る筋肉 (CT)に力が入る
また音程が下がると徐々に
・声帯を引っ張る筋肉 (CT)が緩み
・声帯を縮める筋肉 (TA)に力が入る
この連動を徹底的に喉に記憶させます。
これを繰り返す事により、多くのケースで「ある日突然声(高音)が出なった!」と言う症状は解消します。
どのくらいの期間、発声訓練を必要とするの?
最初の1~2ヶ月は1週間に1度か2度程度のレッスンを受け、
その後は1週間〜10日毎程度のレッスン頻度にする。
このペースでほとんどの方は4ヶ月〜6ヶ月程度で以前の歌い方を取り戻していきます。
「声が出ない」しかも「今まで歌えていたのにある時を境に歌えなくなってしまう」と言うのは本当にショックな事です。
みなさま決まって落胆した表情でスタジオにいらっしゃいます。
しかしクライアント様と信頼関係を築き、一緒に取り組んで歌声を取り戻した時の笑顔はきっと一生忘れられません。
もしこの記事に書いてある事に身に覚えのある方、諦めずに一度ご相談下さいませ!
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この記事を書いた人
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セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター
アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。
所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop
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