女声でよく使われる地声と裏声の中間のような声、いわゆるミックスボイスは大きく分けて2通りありそうです。
その各種発声法の違いから、より力強い発声を習得するための方法を考えてみます。
計測に使う機材 EGG(エレクトロ・グロトグラフィ)
簡単にEGG(エレクトロ・グロトグラフィ)について説明しておきます。
EGGは喉頭の左右両方に電極パッドを装着します。
5mVと言う微弱電流を片方からもう一方に電気を流します。
例えば右から左に電気を流す場合、声帯が合わさっていない場合は電気は流れません。
声門が閉じた際に電気が流れ、1サイクルの中で何パーセント程度、声帯が合わさっているのかを計測する機材になります。
さらに歌声において各種発声の目安となる声門の閉鎖率は以下の通りです。
ケース1 裏声の発声で作られたミックスボイス
こちらはF4の発声をミックスボイス(聴感上は裏声と地声の間のような声)で発声している女性の声です。
声門の閉鎖率は35〜40 %程度。
上記の表と照らし合わせると、この発声は極めて裏声に近い、もしくは裏声で発声をしています。
スペクトログラムで観ると第2〜4倍音(下から2〜4番目の赤いライン)がとても強いエネルギーを持っています。
これは地声発声の特徴的な物で、裏声発声の場合、最下段の第1倍音(基音)が強いエネルギーを持ちます。
ケース1の発声の特徴は裏声的な声門閉鎖+声道による共鳴で第2〜4倍音を増幅していると考えられます。
歌の技術っぽく言えば「裏声を上手に響かせて、地声っぽい音を出している」と言えると思います。
ケース2 地声の発声で作られたミックスボイス
こちらはA4の発声を、同じくミックスボイス(聴感上は裏声と地声の間のような声)で発声している女性の声です。
声門の閉鎖率は55~60%程度。
上記の表と照らし合わせると、こちらは既に地声の状態である事がわかります。
こちらもスペクトログラムで観ると第2〜4倍音(下から2〜4番目の赤いライン)がとても強いエネルギーを持っています。
この発声の特徴は地声の状態=声門閉鎖が高い状態です。
それにより高次倍音のもつエネルギーを声帯が主として高めていると言えます。
(声門の閉鎖が強ければ、喉頭原音の時点で高次倍音は高まります)
この2つの歌声のトレーニングの仕方
驚いたのは女性のミックス発声のこの2つのケースは音色が本当によく似ている事でした・・・!
この2つが音色的に非常に似ている場合で、クライアント様からのオーダーが「力強い地声の習得やベルティング発声の習得」であった場合、ボイストレーニングの仕方は同じではマズい事は簡単に分かると思います。
ケース1の場合、声門の閉鎖率その物をあげる、声帯筋の使用割合をあげる必要があります。
つまり筋力的に発声を改善していく必要があります。
ケース2の場合、既に60%弱の声門閉鎖率を持っているので、これ以上声門閉鎖を上げるアプローチは危険ですし、歌手本人の身体的負担も非常に大きくなります。
この場合、声帯への力のかけ具合は今のままを維持させ、各種母音や口の開け方、舌の位置、軟口蓋の位置などを調整し、声の響かせ方を工夫するアプローチをとるべきです。
実際にEGGを使った発声分析を観てみましょう
ここで資料としている音声は今回テーマの女声のものではありませんが、動画でEGGの動きを観ることができます。
ぜひご覧下さいませ。
まとめ
聴感上、似た声色、音量の発声であっても発声メカニズムが全く異なる場合があります。
EGGを使って発声法を正確に見極める事は歌手本人に対して、正確なボイストレーニングを提供出来る確率を上げてくれる事が期待出来ます。
桜田ヒロキの今後の課題としては、この2つのアプローチ法の経験を増やし、耳での聴き取りレベルをさらに上げる事です!
この記事を書いた人
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セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター
アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。
所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop
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