あなたは「ベルティング・ボイス(Belting voice)」をご存知ですか?
シンプルに分かりやすく言うと、地声で力強く高い声で歌うことです。
例えば、皆様ご存知のビヨンセ(Beyonce)は、ベルティングという技術を使って、力強い声で かっこよく歌っていますよね!
この記事を読んでくださっている方には、
「知っている以前に、もう実践しています!」
などという上級者の方々も多いことでしょう。
ベルティングCM【公開動画】 from 桜田ヒロキ on Vimeo.
ベルティング習得のためのショート動画
しかし残念ながら、間違ったベルティング発声を習得していたり、そもそも“ベルティング発声の 認識を間違えていたりする”ボイストレーナーも少なくありません。
そこで今回は、「ベルティング発声」とは何のことなのかを科学的に解説していこうと思います。
そもそもベルティングの定義とは?
ベルティングとは、チェストボイス(地声)から作られる高音域の発声です。
しかし、叫び声とは全く違います。
そして、クラシックの発声よりも喉の位置が高く、
女声の場合は裏声か?地声か?と言う点でも大きな違いがあります。
この技法は、ミュージカルやロック、ゴスペルなどで使われていることが多いです。
正しいベルティングの発声方法とは?
正しいベルティング発声には、以下のような特徴があります。
・雑音が入っていないクリアな音
・ただ力強いだけでなく、太い音
・聴き心地が良い
・高音を長時間出すことができる
・音を響かすことができる ・無理のない発声なので、喉や身体に怪我やダメージを受けない
間違ったベルティング発声方法とは?
間違ったベルティング発声の例は以下の様なものです。
・音楽的ではない、叫び声の様な音
・ただ大きくてうるさいと感じる音 ・音量をコントロールすることができず、声がひっくり返ったり、音程が下がったりしてしまう ・喉仏が急に上がってしまう
・音が響かず、伸ばすことができない
・喉や身体に怪我やダメージを受けてしまう
ここでお伝えしたかったのは、ベルティング発声と叫び声は全く別物だということです。
聴き分けるためには、良い音と悪い音がどのように違うのかを理解することが大切です。
正しいベルティング発声を身につけるための方法はあるの??
まずは、オクターブ・ルールというものを理解しましょう。
女性の場合を例に出しますが、
『E5の音をベルティングボイスで出したい場合、綺麗な裏声で E6まで発声できるようにする』
ということが重要になってきます。
要するに、ベルティングボイスで出したい音の1オクターヴ上まで発声練習しましょうということで す。
科学的根拠はありませんが、裏声で出せる音の1オクターヴ下までが、ベルティング発声できる、もしくはベルティング発声の練習を安全に出来る音ということです。
では逆に、男性はどうすれば良いのでしょうか?
桜田ヒロキの個人的な見解ですが、
『ベルティングで出したい音の 5 度上くらいを裏声で練習する』 といった方法があります。
要するに、ハイCの音をベルティングボイスで出したければ、G5まで裏声で出せるようにしましょうということです。
「ベルティングボイスを出せるようになりたい!」と思うのであれば、まずは、上記の様な練習から スタートしてみるのはいかがでしょうか?
さあ!ではここからは、専門の機材を使って声帯の密着時間を調べていきます。
そして、ベルティングボイスと叫び声がどのように違うのかを数値化してみます。
E G G(エレクトロ・グロトグラフィ)を使って 声門の密着時間を調べてみた結果
声を出すためには、元々閉じている声帯に息を当てて、振動させることが必要です。
上の画像は、声帯です。
左側は声帯が開いていて、右側は閉じているのがご覧いただけるかと思います。
この声帯の閉じ方を計ることをできるのが、E G G(エレクトロ・グロトグラフィ)という機械です。
喉頭の両側に電極を当てます。
この機械は、声帯に圧力がかかると通電し、声帯が離れると電気が流れない仕組みになっています。
その仕組みを使って、“声門が閉じている時間“と”開いている時間“を計ります。
人は会話をしている最中、声帯は1秒間に 100〜500 回振動しています。
通常の会話の発声の場合では、ゆっくりと声門が閉じて、しばらく経ってから一気に離れます。
裏声で発声した場合は、ゆっくりと声門が閉じて、閉じる時間が短くゆっくり離れていきます。
要するに、声帯がしっかりとくっついている時間が長ければ長いほど地声に近い音になることが分かります。
上記のグラフには、線が上に向かって振れていると、声帯が閉じている 線が下に向かって振れていると、声帯が開いている という結果が記されています。
声帯の密着時間で分かる声の種類
声帯の密着時間によって、話し声にはいくつかのパターンがあることをご紹介していきます。
上記の表は、人に認識される声の種類を大きく3つに分けたものです。
過緊張な声の人の方が、健康的な発声の人よりも、声帯の密着時間が長いことが分かりますね。
音響解析ソフト(Voce Vista)を発明したドナルド・ミラー博士は、
「声門の密着時間が 50%以下の人はクラシックの女性の声であり、65%以上の人は、力強い男性のヘッドボイスである」
と言っています。
そして、現代音楽においての声門の密着時間(D5の音)を検証した結果がこちらになります。
上記の様な数字が出ています。
ドナルド・ミラー博士との見解に若干ズレは生じていますが、概ね60%程度の閉鎖であればベルティング・ボイスと言えそうです。
余談になりますが、声帯の完全閉鎖と言う言葉をYouTubeで見かけた事がありますが、「完全」な「閉鎖」は科学的には閉鎖割合が100%を指します。
これは声帯が閉鎖した状態で、完全に固定される事を意味しますので、声帯で音を作り出す事は出来ません。
声帯の密着時間で何が分かるの?
密着%が高いと、息が漏れない強い音になります。
逆に、密着%が低いと、息が漏れてしまった弱い音になります。
例えば、同じテンポで手を叩いてみましょう。
1 手をギリギリまで離さないで叩く
2 手を離しておいて、叩く瞬間だけ手を合わせる
1 の場合は、ギリギリまで手を離さない様に叩いているので、密着%は高くなります。
対して、2のパターンは、手を瞬間的に叩くので、密着%は低いという事になります。
肺から吹き上がる息で振動すると言う声帯の運動特性を考えると、
1は息漏れが起こりにくい。
2は息漏れが起こりやすいと考えればわかりやすいでしょうか。
声帯の密着%が高い声ほど、地声に近い音になるという事です。
なおこの実験は、ミュージカル俳優やボイストレーナーが発声したものを EGGで検証したものです。
更に、発声しただけではなく、プロの音楽家が実際にその声を自身の耳で聴いた上での実験です。
“この発声方法の声門の密着時間は〇〇%である“といった検証ができた、非常に価値の高い検証結果だと思います。
まとめ
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
今回は、ベルティング発声方法や、声帯についてのお話をしました。
遠回しに色々と説明させていただきましたが、ここでお伝えしたいことは、間違った練習方法や指導方法には気をつけて欲しいということです。
あなたが間違った方法でトレーニングを積み重ね続ければ、喉はダメージを受けてしまい、怪我 や病気になって手術することになったり、最悪の場合、声が出なくなってしまったりする可能性もあります。
間違った発声による大きな声を出すことは、比較的簡単なことです。
反対に、音楽的な美しい声を出すのは、簡単ではありません。
「今出しているこの声は、聴いていて心地良いだろうか?」
「聴く人の立場になった場合、その人は喜んでくれるだろうか?」
常にこういった気持ちを持って、練習に励んでみてください。
その気持ちが美しい声や音楽を作り出してくれるでしょう。
しかし、一人の独断ではなかなか難しいこともあると思います。
「理論は分かったけど、実際にどうすればいいのか分からない」 「今の発声方法で本当に大丈夫なのか心配・・・」 などといった悩みがある方は、ぜひこれをプロフェッショナルのにレッスンに足を運んでみると良いと思います。
この記事を書いた人
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セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター
アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。
所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop
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