当スタジオには歌が上手になりたいと言う方の他に「以前出ていた歌声や芝居で使っていた声を取り戻したい」と言う目的でボイストレーニングにお越しになる方も多くいらっしゃります。
主な症状はこちらです
・高音が出しづらくなった
・裏声が出しづらくなった
・声が詰まるように感じるようになった
・声がかすれるようになった
・声割れが起こるようになった
等です。
ボイストレーナーがトレーニングを行うのは、病理性がない、もしくは医師が話声を超えるトレーニングを許可した場合になります。
病理性の疑われる場合は、まず医師の診察をお勧めします。
東京都内でしたら音声外来の医師とも繋がりがありますので、ご連絡いただければ紹介させていただきます。
機能性発声障害とは
これらの症状は機能性発声障害と呼ばれる事もあり、特にプロフェッショナル・ボイスユーザーを悩ませる症状です。
機能性発声障害は「音声に異常を認めるにもかかわらず、声帯に原因となる器質的異常を認めないもの」と定義されます。
前にも述べていますが、この診断を受けた場合、まずは医師の指示にしたがって治療や言語聴覚士との音声訓練(Rehabilitation)を行うのが流れとなります。
話声での異常が寛解した場合、歌唱や芝居の声を目的とした発声(Habilitation)はボイストレーナーが引き継ぐ事となります。
こちらの図を観ると喉頭の緊張状態により声がどのように変化するのか理解しやすいと思います。
図の左側は「喉頭の緊張が低い」右側に移動すると「喉頭の緊張が高い」となります。
喉頭の緊張が低い場合、声門が閉じず、声を発する事が出来ません。
逆に喉頭の緊張が非常に高い場合、声門が閉じすぎ声帯の振動を害するレベルに達すると声が途切れてしまいます。
ボイストレーナーが担当するのは気息性発声、圧迫発声が多いと思います。
機能性発声障害の原因は
大阪大学医学部附属病院の音声治療を受けた90名の患者の発症前のエピソードはこちらになります。
習慣的な音声酷使 42例
胃食道逆流 25例
感冒時の音声酷使 12例
声帯萎縮・溝症の代償 11例
人間関係からのストレス 8例
仕事の多忙 2例
無理な歌唱 2例
その他 10例
最も占めるのは音声酷使でした。
機能性発声障害の原因として最も多いと考えられるのが、下記のパターンと考えられます。
1 声の酷使などにより正常な状態で発声が出来ない
2 発声の誤ったパターンを体が学習してしまう
3 今まで無意識で発声していた状態を間違った発声パターンが塗り替えてしまう
4 誤った発声パターンを継続的に行い悪化が進んでしまう
桜田の所にいらっしゃる方の中には声帯結節の手術後、以前のような発声を行えなくなってしまったと言う方もいらっしゃります。
これも似たようなパターンだと予想しています。
1 声の酷使などにより声帯結節が出来る
2 声帯結節のある状態での発声パターンで覚えてしまう
3 声帯手術で結節を切除
4 声帯結節ありきの状態で長年発声していたので、結節が除去されると声門を効果的に閉鎖出来ない
誤った発声を行う期間が長いほど克服に期間が掛かる
誤った発声を長期的に行えば行う程、運動学習が進んでしまい元の状態に近づけるのに長い期間を要します。
プロフェッショナル・ボイスユーザーに機能性発声障害が多いのも、無理な音声酷使を長期的に行い、発声のエラーが出た状態で運動学習が進んでしまうのが原因と考えられます。
習慣的な音声酷使の次に多かった胃食道逆流 25例、感冒時(風邪)の音声酷使 12例も原因は似ていると考えられます。
これらの症状の時、声帯などが腫れている状態で発声を続け、運動学習が進んでしまい正しい発声の仕方が分からなくなってしまうパターンではないかと予想します。
加齢による音声変化
エピソードでは載っていませんでしたが、歌手は年齢に合わせた発声法を身に付けていく必要があります。
男女ともに年齢と共に徐々に低音化していくため、20台前半で甲高い声を楽々出せていても、年齢と共に発声を上手に合わせて変化させていく必要がありますが、それがうまく行かず、結果的に無理のある発声となってしまい、それを反復して行く内に機能性発声障害に陥る歌手もいるのではないかと考えています。
いかがでしたか?
機能性発声障害の原因は発声の誤った運動学習が有力だと言う事。
運動学習の期間が長ければ長い程、回復には時間を要する可能性が高い事。
対処に迷ったらまずは音声外来に相談する所からスタートしてみるとよいと思います。
次は→ 声が出しにくい!?機能性発声障害に陥るプロセスの例を解説
この記事を書いた人
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セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター
アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。
所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop
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