- 2022.09.02
- お知らせ
当スタジオにはオーディション対策のためにレッスンに通われる方が多くいます。
オーディション対策のために新規レッスンのお問い合わせを下さる方もいらっしゃります。
今回は「来週、再来週にオーディションがある」もしくは「明日、本番がある」というシチュエーションで初めてレッスンに来る方についてお話ししようと思います。
結論から言いますと、基本的にはおすすめしません。 オーディションの直前にボイストレーナーを変える、もしくは初めてレッスンを受けるような事はしない方がいいです。
継続的に師事しているボイストレーナーに習いましょう
特定の先生に継続的に歌や発声を習っているのであれば前日や前の週にレッスンを受けることは全く問題ないと思います。 長い間、継続している方法なので大丈夫です。
今回お話ししたいことは「初めて習う先生にオーディション対策のお願いをする」ことについてです。
僕たち使うボイストレーニングの一つの方法論としてどういうことをやるのかということから説明していきます。
ほとんどの場合、慣れている出し方が最も快適に感じます
僕たちの使っているSpeech Level Shingingというメソッドから採用している技術を紹介します。 声のタイプをそれぞれ分析していき、弱点に分けてトレーニングをしていくようなイメージです。 例えばライトチェストという地声があまり出ないタイプであれば、地声を活性化させていくトレーニングを行ったり、 プルチェストという地声で叫び上げてしまうタイプであれば裏声を出すことにより叫び上げてしまうことを改善したり、 フリップであればひっくり返りを止めるように仕向けていきます。
場合によっては歌唱で使う歌い声とは異なった「極端な声」で発声させる事もあります。 カウンターバランスと言って起こっている現象に対して逆の事をさせる事によってバランスを保つようにします。 これを行うと副作用が起こる事があります。 例えば叫んでいた人に裏声を教えるとひっくり返りやすくなる事があります。 逆に地声がなかなか出ず裏声歌いをしている人に、地声歌いをとって付けたように教えてしまうと過緊張になってしまい、聞けたものではないような音色になったりピッチが取りづらくなったりもします。
慣れた発声法にしていくためには一定の時間を必要とします
発声における基本ルールは、「たとえ間違った出し方であっても慣れている声が一番出しやすい」ということです。
なのでとって付けたように数日前に発声の矯正をして、声を慣れていない状態でオーディションなどに臨んでもおそらくうまく行かない可能性が高いのです。
例えばプロ野球選手が明日初登板するとします。 大事な舞台の時に「前日にコーチを変えて新しい投球法を習うか?」と言ったら、、、。 絶対習わないですよね。それと全く同じ事なのです。 ボイストレーニングというのは根本的に発声を見直すこともあるので、短時間で根本的な修正はあまりおすすめできません。
「歌う」と言う事は多くのタスクをコントロールする事
ボイストレーニングでは発声を矯正するために様々な言葉のパターンや音階のパターンを使います。 (※実際のエクササイズは動画をご覧下さい)
これらを使い、反復させることによって慣れさせたり適応させたりします。 このことを心理学の言葉で順化(habituation)と言います。 意識してする動作と無意識で動作を行うのを比べると、脳の構造上、無意識ですることの方が短時間で大量の情報を処理することができるそうです。 つまり順化される(慣れて無意識にコントロール出来るようになると)と多くのタスクをコントロールするのが難しくなく感じるようになります。
例を挙げると、これを読んでいる方の多くは歩きスマホは難なくできると思います。(これはやらない方がいいですが) スマートフォンを使い慣れていて、なおかつ歩くことにも慣れているからです。 両方とも慣れていることなので難易度がそんなに高くないタスクであると脳が認識しています。 しかしスマートフォンを初めて触った方はまずは画面に集中しないといけないので歩きスマホはできませんよね。
歌うということはピッチ・リズム・音楽解釈・音量・音色など無限大の引き出しの中から表現していかなければいけません。 そんな中「ここでひっくり返ってはダメだ」など「これを意識しよう」というのが頭にある限り他の処理がうまくできなくなってしまいます。 なので、人前で歌うのはあくまでも「慣れてから」がポイントになります。
従って緻密なボイストレーニングは直前にはあまり出来ません
オーディションや本番の直前に初めて僕のレッスンに来た生徒さんをトレーニングしようとすると、細かいところの修正はできなくなってしまいます。 細かい修正をたくさん行うと全体のバランスが崩れてしまい、結果的に今よりも下手に聞こえてしまう事があるからです。
もし修正するとしたら「そこをもう少し明るく歌ってみて」「もう少し悲しく」などそんなアプローチになってしまいます。 これは僕ではなく友達に聞いてもそのようなアドバイスを言ってもらえると思います。 ボイストレーナーの専門職としてやるべき事というのがなかなかできなくなってしまうこともあります。
なので、基本的にはオーディションや本番の直前に新しい発声法を身につけるのはおすすめしません。 現状のやり方で自分の歌唱を最大化する方法を考えた方が良いと思います。
「慣れる」までの期間 では大体どれくらいの期間あれば順化していくのか
声の段階や歌うべき楽曲のレベルにもよりますが、 理想は3〜6ヶ月くらいかけてじっくり身体に馴染ませるようにしたいですね。
発声というのは、改善していく中で何かしらの副作用が起きることもあります。 この副作用をなるべく起こさせないようにしたり、起きてしまったことに対処していくレッスンもあります。
なので3〜6ヶ月くらいの余裕を見て、発声をじっくり見直して身体がしっかりと慣れ、まさに順化した状態で楽曲に取り掛かりオーディションに臨んで合格というパターンが一番望ましいかと思います。 最初にもお伝えしたように、オーディション前にレッスンを受けない方がいいというわけではなく、突然ボイストレーナーを変えて「新しい発声法を身につけよう」という無謀なことはやめましょう。
この記事を書いた人
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セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター
アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。
所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop
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