ここまでたくさん、声帯のコントロールが地声 / 裏声 / ミックスボイス 発声時にどのように行われているのか解説を進めてきましたが、今日は音響的に何が起こっているかについて解説をしていきます。
以前、息と声って何が違うの?で少し説明しましたが、音と言う物理現象は空気の粒子が隣の空気の粒子にぶつかってビリヤードの玉の様に振動が移動する事だと解説しました。
倍音について
音声について話す時、倍音は必ず知っておく必要がある項目ですので、覚えておきましょう。
声の主な情報となる整数次倍音は、
100Hz = G1とG#1の間を基音(音程)とすると
200Hz 第2倍音
300Hz 第3倍音
400Hz 第4倍音
と言う規則性を持っています。
要は、
歌っている音程の周波数×1,2,3=それぞれの倍音になります。
※定常波において、最も大きく揺れ動く点を腹といい、まったく動かない点を節といいます。
周波数とは、音楽で言う音の高さですので、100Hz(=G1),200Hz(=G2),300Hz(=D3)…と言う事は、声は短音であっても実は倍音毎にバラバラに聞くとハーモニーの様に構成されています。
それを脳が1つの音声として処理された結果、音色や声色として認識しています。
基音が音の高さ。それ以降の倍音は音色(もしくは母音、子音)として認識されます。
音声解析ツールを使えばこの倍音毎にバラバラに聞く事も出来ます。
ここに息漏れなどの雑音(非整数次倍音)が混じり、完成するのが喉頭原音と言われる音声です。
ただし、喉頭原音はビーと言うブザー音と言うか、アヒルの鳴き声の様な音色をしています。
この段階では誰の声であるか選別できる段階にはありません。
声道(Vocal Tract)で喉頭原音が加工される事が必要で、このプロセスを通過して個体識別出来る音声となります。
ちなみにこの喉頭原音に近い波形を計算で算出する事も出来、ローゼンバーグ波がそれに近いとされています。
余談ですが、このローゼンバーグ波はEGG(エレクトリック・グロト・グラフ)によって出された声帯の閉鎖運動にとてもよく似ているのも興味深いところです。
各発声クオリティにおける喉頭原音の違い
さて、地声感の強い声を作るためには声門の閉鎖を強める必要がある事は、ここを読んでいる方では多いと思います。
ではこの声門閉鎖を強めた事によって起こる音声的な変化はどうでしょうか?
こちらの図をご覧ください。
これはローゼンバーグ波で作った疑似喉頭原音をスベクトラルグラム上に表示したものです。
縦軸がエネルギー値で高くなれば大きな音になります。
横軸は周波数で右に向かえば高くなります。
針山の様に表現されているのが、倍音で左側から第1倍音、第2倍音となります。
左上の図の場合、基音から順番に3dBエネルギーが減衰しています。
順番に横に移動していき、、、
右下まで行くと1倍音高くなる度に12dBエネルギーが減衰しています。
倍音の減衰の仕方と発声の種類の関係性
上記の図を見ると左上のスベクトラルグラムから順々に減衰が激しくなっています。
スペクトラルグラムを見る際の基本ルールとして、
高整数次倍音が多い=地声感の多い声
高整数次倍音が少ない=裏声感の多い声
となります。
つまり、左上から順番に地声感の強い声になり、右下に達した時にはかなり裏声になっていると考えて良いと思います。
ちなみに「高整数次倍音が多い喉頭原音を作るためには声門の閉鎖を強め、声門の閉鎖時間を長くする」
逆に「高整数次倍音が少ない喉頭原音を作るためには声門の閉鎖を弱め、声門の閉鎖時間を短くする」
と言う事が言えます。
ただしあくまで僕たちは「歌声」を作る事にフォーカスを置いているので、
「地声を作りたい!だから力一杯、声帯を閉じて右上のような喉頭原音を作ればいいんだね!」
と言うのは間違いです!(笑)
恐らく、右上のような喉頭原音を作るには、かなり声帯を無理矢理閉じる必要があり、相当な過緊張発声(Pressed phonation)と言えると考えられます。
となると、右上の1番の図は歌唱には向かない可能性が高く、歌唱に使うのであれば、2番以降の減衰が必要になるかもしれません。
僕たちは「人間が好む範囲内で力強く、かつ負担の少ない発声」と言うものを探していく必要があるわけです。
最後に
いかがでしたか?
声には、声門閉鎖が大事!倍音が大事!と聞いた事はあると思いますが、お互いの関係性が少し見えてきたのではないでしょうか?
ただ、声帯を強く閉じればよい、弱く閉じればよい、と言うわけではなくそれぞれの場面にあった理想の声を出せるようにするために常に「良い塩梅」と言う事を考えながら練習をする必要があるわけですね!
この記事を書いた人
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セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター
アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。
所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop
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