- 2021.03.23
- 歌手のための音声学
「もっと強く息を吐いて!」
「もっとお腹から息を吐いて!」
こんな言葉はボイストレーニングの世界では良く聞く言葉ですね。
あれ?強い息?速い息が強い声を作るの?
高い声を作るの?
息と声って何が違うのだろう?
意外と明確に答えづらいかもしれないですね。
そこで今回は、息と声と言う物理現象の違いについて説明しようと思います。
声(音)は「空気の波」 息は「空気の移動」
声と息の違いは単純に物値現象の違いで、
声(音)は空気が波上に移動する事。
息(風)は空気そのものが移動する事です。
こちらの図を見てみましょう。
1つ1つの点が空気の粒子とすると波が右側に移動しているのが見えると思います。
しかし、点のひとつ、赤い点をよ〜〜く目を凝らしてみて下さい。
その場で左右に揺れているけど右に向かって移動はしていないのがわかるでしょうか?
これが音の現象の特徴です。
息は「空気の移動」
では息はどうでしょう?
息の場合は、先ほどの図で言うと「点そのものが右に移動する事」と言えます。
(図がなくてごめんなさい・・・!)
これは海の「波」と「津波」の違いと似ていて、波は下の図のようにやはり海面周辺がその場で円上に動いています。
津波の場合は海ごと地上に向かって移動してくる現象だそうです。
声においては「風」から「音」への変換が重要
空気は横隔膜や胸郭などの働きにより肺に取り込まれます。
肺に取り込まれた空気は、
・横隔膜の力が抜ける事
・肺の中と外気の気圧差
・胸郭などの補助
等により肺から声帯に向かって流れます。
そこで閉じた声帯に息が当たり声帯が振動を始めます。
これにより喉頭原音が作られる事になります。
喉頭原音の時点では声ブザーに近い「ビー」と言う音です。
ここで初めて「息」が「声の元」に変換されるわけです。
そこから主に声帯の上から唇までの共鳴腔(vocal tract)で加工され、声色、母音、子音が出来上がります。
声帯の振動図を見てみましょう。
これは地声発声時の声帯の振動パターンです。
声の音量を強める時には、声帯を強く閉じ、それと同調させて息を強めます。
これによって「大きな声」が出来上がるわけです。
専門用語では声の効率(Vocal Efficiency)と呼びます。
空気力学エネルギー(つまり息)がどの程度、音響エネルギー(つまり声)に変換されたか、つまりどのくらい効率よく音声を生成できたかを物理量解で評価をする事で、専門医(音声外来など)では実際にこれを計測する事が出来ます。
過度に強い息が禁物な理由
「じゃあ、ドンドン息を強めて声帯を強く閉じれば大きな声が出せるって事だよね!?」
答えは「YES」です。
ただし声帯が充分に閉じていられる間に限ります。
声帯そのものは
男性 15〜21mm
女性 10〜15mm
と言うとても小さな2枚のヒダです。
それに対して肺は左右合わせて6〜7リットルの空気を蓄えられるので、取り扱える力が声帯の方が圧倒的に弱いわけです。
過度に強い息を声帯に当てると、、、
声帯は限界までは頑張って閉じますが、喉を非常に緊張させる必要があるため、苦しく、過緊張発声になります。
それを超えると声帯は閉じられなくなり、今度は息を漏らし出します。
※6〜7リットルの息が全て1回の呼吸で入れ替わるわけではなく、安静時で500ml程度。深呼吸時で2リットル程度です。
これによって
声に気流音が混ざる。(息漏れ声)
声帯の閉鎖が弱まる。(音量の減少)
が起こります。
この事を考えると、喉頭が過度に緊張しない範囲内で、「呼気 VS 声帯の閉鎖」を行える事が重要な事が分かると思います。
声を出す際には、むやみに息を吐くのではなく、声帯の閉鎖と呼気との絶妙なバランスを訓練する必要があります。
ですので、ボイストレーニングの目的は、「声を出す筋力を強める運動」と言うよりは、呼吸と声帯の繊細なバランスのコントロール能力を身に付けるいわば操作法のトレーニングと考えて行うと良いと考えられます。
余談ですが・・・
息が声帯を振動させ、音に変換された声道内(Vocal Tract)では音と共に、息も流れているため、
空気の振動(音)
空気そのものの移動(風)
両方起こっています。
学校のチャイムの音や、町内放送が風向きによって大きく聞こえたり、小さく聞こえたりした経験のある方も多いのではないでしょうか?
この場合は、音の粒子の反発(音)+空気の移動(風)で音が影響を受けていると考えられます。
ただし!
いくら息を強く吐いても10メートル先の人に風を感じさせる事は人間の力ではほとんど出来ませんので、
音+風の影響はほとんど人体内(声道内)で終了してしまっていると考えて良いと思います。
この記事を書いた人
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セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター
アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。
所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop
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