「高い声は息の力で出すんだよ!」と言うのは僕も子供時代の音楽の授業で言われた事がありましたが果たしてそうなのでしょうか?
未だにこの様な指導されているボイストレーナーは少なくないと思います。
今回は科学的に「強い息」は高音発声の手助けになるのか?を検証してみようと思います。
肺圧で高音って出せるの?
ここに肺圧と声帯の長さと基本周波数(ピッチ)の関係性を表した表があります。
縦軸が基本周波数。横軸が肺圧(息の力)。
そして各声帯の長さ(センチメートル)毎に出る基本周波数を線で表現しています。
この図で見ると非常に興味深い事が見えてきます。
0.5cmの声帯では肺からの圧で約75Hz(E♭2)から最大220Hz(A3)程度まで上昇出来る事がわかります。
それに対して1.2cmの声帯は肺からの強い圧を与えても約225Hz(A3)からほぼ変化しない事がわかります!
声帯が伸びていない低音では肺圧の影響を大きく受ける
さきほどの表では声帯が伸びていない、声帯が短い低音では肺圧の影響を音程が受けやすい事がわかります。
なぜこの様な事が起きるのでしょうか?
ではこちらの表をみてみましょう。
※前回のブログ「地声の時、音程はどうやって作ってるの?」で地声ではCTとTAの活動によって音程が生成される事を解説しました。
表の左から声帯が伸展していない状態。
真ん中がCTとTAの調整で応力が働き、伸展した状態。
右がCTとTAの調整で応力+肺圧で声帯が振られた状態です。
この「声帯が振られる状態」では動的な応力が働きます。
つまり声帯が振られて剛性が上がります(硬くなります)。
声帯の剛性が上がると音程が上がります。
低音では声帯にCTとTAから作られる声帯へのストレスが小さいため、動的なストレスの影響を受けやすくなります。(声帯が肺圧で振られる余地がたくさんあります)
図で見るとXの振り幅が大きくなります。
高音では声帯に輪状甲状筋(CT)と甲状披裂筋(TA)から作られるストレスが既に強く働いているため、Xの振り幅があまり出来なくなります。
これによって低音は肺圧の影響を受けやすい。高音は肺圧の影響を受けにくい現象が起こります。
実際にやってみた。
ではこちらの図をみてみましょう。
左がB2を発声しながらお腹を強めに4回押した時の音程変化です。
約E3まで上がっていますので半音4つ分上昇。
123.5Hzから164.8Hzまで上昇しました。
約40Hzの上昇。つまり声帯の振動回数が1秒間に40回も高まった事になります。
右がF4を発声しながらお腹を強めに4回押しましたが、1/4半音から1/3半音程度しか上昇しませんでした。
つまりお腹を押して肺圧を高めてもほとんど音程には影響を及ぼしませんでした。
F4で349.2Hz。F#4で370Hzですので、10Hzも変化しなかった事になります。
この事から考えられるボイトレへの応用は?
今回、わかった事は低音では肺圧は音程に強く影響するが、高音ではあまり影響しない事が分かりました。
ボイトレで言える事は少なくとも高音発声の時にお腹を強く押したり、息を強く吐く事はあまり効果的ではないようです。
高音域開発では輪状甲状筋(CT)と甲状披裂筋(TA)のバランスを上手に作る事が重要と考えられますので、
・裏声を優しく出すトレーニング
・裏声を大きく出すトレーニング
・地声を優しく出すトレーニング
・地声を大きく出すトレーニング
これらを使って声帯をコントロールする筋バランス。そして音程毎に適切な肺圧を探していく事が有効と言えると思います。
この記事を書いた人
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セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター
アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。
所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop
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