- 2022.04.30
- ボイストレーナーのお仕事 声の健康法
ボイストレーナーの仕事の多くはスタジオでのレッスンとなりますが、ライブ会場やテレビ収録の現場まで伺い、アーティストの声を整える事もあります。
当日リハーサル前のウォーミングアップ
ウォーミングアップの場所はアーティストによって異なります。
ボイストレーナーの部屋を専用に充ててくれる事もありますし、アーティストの楽屋で行う事もあります。
GENERATIONSのライブツアーに帯同した際はボイストレーナーの部屋が用意されていました。
「昨日はよく寝れた?」「疲れ残ってない?」等なんて事のない会話からその日の健康状態のチェックや話し声を聴き、その日の声の状態をチェックしていきます。
この時点での声の出方は、後のリハーサルから本番に向けての声のチューニングの仕方に影響が出ますので、慎重に聴き分けます。
チェック項目は
・話し声の低さ、高さ
・話し声にかすれはないか?
・歌い声(地声)の音程はフラット傾向にないか?
・歌い声(地声)のツヤ、響きは良いか?
・裏声が直ちに出せるか?
極端な場合、この中のチェック項目で、、。
「話し声が低く、かすれており、地声がフラット傾向にあり、ツヤがなく、裏声の発声がしにくい」場合、声帯に腫れや浮腫などがある可能性があり吸入や消炎剤の服用を勧める場合もあります。
リハーサル時の声の出方のチェック
リハーサルの時点で声が本番に近い状態で仕上がっている事が重要です。
ウォーミングアップの仕方に寄って歌声は変わりますし、アーティスト本人の歌いやすさにも大きく関わります。
リハーサルの時点で本番に近い状態で声が出ていた方が、会場の音作り、モニター環境の音作りをしやすくなります。
本番とリハーサルで声色や声量が大きく変わってしまうと、エンジニアは微調整を本番中に行う必要があり、それがアーティスト本人の歌いにくさに影響を及ぼしてしまう事があります。
桜田はリハーサルの時点で声色を聴き分け、本番前の声の最終調整でのウォーミングアップのメニューを考えます。
大まかに言うと「音程の当たり方は正確か?過度な努力性発声(力任せの発声)になっていないか?声のツヤはあるか?」等をヒントにメニューの検討を行います。
ただし、マイクを通した時点でボイストレーナーが聴くべき声色は変化してしまうので、リハーサルのマイクを通した声の聞き分けはあくまで参考程度になります。
食事のタイミング
会話の中で「食べた後ちょっと痰が絡むな〜」等と言うコメントを聴いた場合、食事や飲み物のタイミングもボイストレーナーの注意点になります。
食事の後にちょこちょこ咳払いをする場合も、注意を促します。
この様な事を把握出来ているアーティストはウォーミングアップや本番の直前に食事を摂って欲しくないため当日のスケジュールを確認した上で、「食べるなら今食べておいてね〜」等伝えています。
声の状態をよくするために気を付ける事は、基本的には良く寝て、声を使いすぎず、適度に練習をして栄養のある食事を摂る事です。
基本的に「お母さんがダメと言う事はするな」程度です。(笑)
深酒、たばこ、ドラッグ、睡眠不足はどんなお母さんでも勧めないですよね。
あとはその人それぞれ「これをした直後は声が出しにくくなる」を把握する事です。
桜田の場合は筋トレやコーヒーは歌う直前には控えます。
本番前の声の最終調整
本番30分前から約15分〜20分間で行います。
この時間の声の調整で、その日の公演の歌のクオリティが左右されるため、非常に神経を使って行います。
・音程を正確に当てやすい発声状態になっているか?
・声は明るくツヤがあり、響きがよいか?
・響きのある声である結果、健全な声量が出ているか?
等を確認していき、引き出していきます。
この中の「響きのある声である結果、健全な声量が出ているか?」と言うのがとても重要です。
これがうまくいっていない場合、本番での声量を稼ぐため、アーティストは力任せの発声をしがちで、結果的に音程が当たりづらくなる事があります。
必要であれば、ウォーミングアップ・セッションの中で短い数小節のフレーズを本番に近い状態で声を出してもらい微調整を行って行きます。
本番前にアーティスト本人とコミュニケーションを取れるのはここまでになりますので、「大丈夫!パフォーマンスを楽しんで!」と伝えて送り出します。
ライブパフォーマンス中の歌唱チェック
本番中はアーティストと同じイヤーモニター(イヤモニ)と会場の音を両方聴きながら、声に異常がないかを確認していきます。
同じ演目を何度も歌うライブツアーの場合、歌いづらそうな部分、音程が外れた部分、声が割れた部分等チェックをしていきます。
伝えやすい物はその日の夜のうちにアーティスト本人にLINEを送ってチェックしてもらうます。
わかりにくい部分はビデオや録音を翌日などに一緒にチェックして練習に付き合ってもらう事もあります。
このプロセスはライブツアーの初回数回はとても重要なプロセスで、これを徹底して行えばアーティスト本人の歌唱はライブツアー後半にかけてドンドンと良くなっていきます。
本番後のクールダウン
桜田ヒロキガアリゾナ州で出席した音声学会では「声のクールダウンを行った場合、ほぼ全員の歌手が翌日の声の掠れ、疲労感が軽減したように感じた」と行ったクールダウンについての発表があり、それを参考にクールダウンを組み立てて実施したところ、多くのシンガーに好評でした。
クールダウンの方法はストレッチやハミング、ストロー発声やリップバブルと言ったSOVTエクササイズ等がありますが、その日の状況に合わせて5~10分間程度のクールダウンを行います。
まとめ
ボイストレーナーの役割は一般的には「歌唱指導の先生」として観られがちですが、桜田ヒロキは本番中は声をチューニングする、声の調律師としての立場で仕事を行っています。
同じアーティストでも何度か現場を共にして「声の出し方の癖」を深く理解していければ、例え調子の悪い時でも発声練習の調整でかなり良い状態にまで持って行く事は出来ますし、本番でのブレも小さくなっていきます。
アーティストはそんな状態が当たり前になり「少しでも良い歌を歌えるように」とよりハングリーな姿勢になって行くのを何度も観てきました。
「歌が良くなった」とファンの方に褒められるのは当然アーティスト本人もうれしいですし、担当しているボイストレーナーとしても非常にうれしい言葉です。
特にライブツアーの帯同となる場合は、リハーサルからライブ初日〜千秋楽に向けてどんどん良いパフォーマンスを行ってもらえるようチームの1人として全力を尽くします。
これからもボイストレーナーが現場に立ち会う意義を追求し、さらなる研究を重ねてアーティスト本人、歌声を聴いてくださるファンの皆様に還元していければ幸いです。
この記事を書いた人
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セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター日本人最高位レベル3.5(2008年1月〜2013年12月)
米Vocology In Practice認定インストラクター
アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間およそ3000レッスン(のべレッスン数は裕に30000回を超える)を行う超人気ボイストレーナー。
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中。
所属・参加学会
Speech Level Singing international
Vocology in Practice
International Voice Teacher Of Mix
The Fall Voice Conference
Singing Voice Science Workshop
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